周産期医療の整備に関する提言

熊本県では高リスク妊婦は出産できない? 「搬送お断り」も 周産期医療の整備難しく 医療が薄い地域では「高リスク出産を淘汰したい」のが政府の方針か?: 天漢日乗をきっかけに、周産期医療への対策として、できるだけ現在の医療レベルをおとさず、かつあまり産婦人科医の先生方の負担を増大させないために何ができるのかを考えてみました。なお、上記エントリをもとに考察しているので、奈良県を例にしていますが、日本全国でも同様な考察ができると考えています。

出産場所を各都道府県に数ヶ所設ける周産期医療センター周辺に限定し、妊婦/産褥婦にセンター周辺への滞在費の助成金を支払う制度を、全国的に導入するとよい、と私は考えています。

このような考えに至る過程で参考になった事例が、隠岐での産科医不在でした。

今年4月から10月の間、隠岐諸島から産科医が不在となり、島内での出産が不可能になりました。10月現在では、新たに産科医が赴任したため、島内出産は可能になっています。この間、隠岐の島町島根県では、妊婦に対し、松江市での出産に対し、支援金を助成する制度を導入していました(例:http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=527330006)。

私は、この対策はかなり理にかなっていると感じました。

もちろん、妊娠がわかったときから出産までお母さんが引越をするとなると、お父さんの仕事や、お兄さんお姉さんの学校などの問題が生じ、家族にとってかなりの負担になることは否めません。

しかし、2005年12月現在で奈良県に分娩取り扱い施設の常勤医は78名しかいません(全国周産期医療データベースに関する実態調査の結果報告)。この人数から考えると、24時間の救急に対応する病院には産婦人科の常勤医が10人は必要ですから、完全に割り振ったとして7-8施設程度しか作れないことになります。また、この中には本来は研究が本務である奈良医大病院が含まれますし、日本の産婦人科医の4割を占める60代以上の先生に労働基準法の限界である月4回の当直をさせるにもいかないでしょう。また、24時間周産期の三次救急に対応できる医療施設には15-20人程度の産婦人科医が必要でしょうから、県内に1-2箇所設置するのがマンパワーとして限界でしょう(本来周産期医療センターに必要な人数についてはソースをみつけられなかったため、私の想像です)。

すると、そのなかで妊婦/胎児の安全をできるだけ考えるには、妊婦を病院の近くに集めなければならないという結論になるのではないでしょうか。